社名であるエルダット(LDAT)とは、持続可能でウェルビーイングな地域社会を目指し、市民を中心とした様々な関係者(行政、地域企業、市民組織、大学など)が、地域の現状や課題、制約、利用可能な技術などを「共に学び」、社会課題解決のための産学官民の新しい役割分担を「共にデザイン」し、人間中心で公正で倫理的なデータ共有に基づき「共に活動(協働)」することを表しています。
 私たちは、このような活動を続けることで、人と地域が継続して学び続け、持続可能な社会とひとり一人のウェルビーイングな社会を実現したいと考えています。

地域の現状

 少子高齢化の進展と人口減少、地球温暖化と巨大災害の増加、グローバル化と地域産業の衰退などを背景に、地域には解決すべき様々な課題が山積しています。


 こうした課題解決と産業競争力の向上を目的に、日本ではSociety5.0の構想が提唱され、デジタルデータを活用した地域や社会のイノベーション(デジタル・トランスフォーメーションDX)の必要性が叫ばれています。これに呼応する形で、現在、スマートシティ、スーパーシティ、デジタル田園都市構想などの施策が推進され、様々な自治体で地域や行政のDXが推進されていますが、果たしてこうした先端技術の導入を中心とするデジタル化の推進だけで山積する社会課題は解決されるのでしょうか?

スマートシティの状況

 内閣府が中心に発行した「スマートシティガイドブックV1.0」によれば、スマートシティの基本コンセプトとして、下記のような3つの基本理念5つの基本原則が提唱されています。

 現在、日本各地で推進されているスマートシティやスーパーシティの取り組みでは、③の分野間・都市間連携を実現する仕組みとしての「データ連携基盤」の構築と、自動運転カーやドローン、AIなどを活用した先端サービスの実装を中心としたものが多い印象で、①の「市民(利用者)中心主義」は、形ばかりのものが多いように感じられます。また、先端サービスも、技術の実証やデータの獲得に重点が置かれ、②の「ビジョン・課題フォーカス」も、後付けの建前にしか聞こえないものの多い印象です。また、基本原則の最後にある「運営面や資金面での持続可能性確保」も、残念ながら十分に検討されているとはいいがたく、実証期間がすぎれば継続が難しいものも多いと感じます。

 また、こうした取り組みの多くは、比較的財政余力のある、人口減少も穏やかな大都市を中心に推進されているものが多いようです。日本の大半を占める人口減少が進んで財政余力の乏しい地域でもこうした先端サービス群は導入可能なのでしょうか? また、こうしたサービスの導入により、地域課題はどれだけ解決できるのでしょうか?

 

地域課題の解決に向けて(社会システムのリ・デザイン)

 第二次世界大戦のあと、私たちの先輩方の大いなる努力により、日本は、世界にも稀な安全で効率のよい社会が構築されきました。この社会システムは、経済成長と人口増大を背景として、様々な活動が専門・分化され、それぞれの組織のなかで最適化されることで構築されてきました。しかしながら、こうした専門・細分化された組織は個別に独自仕様にもとづいてICT化されてきたため、組織を超えたデータ連携・共有がうまくいかないということが、近年のコロナ禍によって明らかになりました。

 こうした状況を踏まえて、現在、「データ連携基盤の導入」や「相互運用性の確保」が叫ばれていますが、組織間のデータの共有は、既存組織の競争優位性を手放す可能性を秘めているため、既存組織・団体の抵抗にあって、遅々として進んでいないのが現状です。一方で、少子高齢化・人口減少が進んでいる地域では、地方病院の閉鎖や統廃合で代表されるように、第二次世界大戦後に構築された社会システムの維持が困難になってきています。

 他方、人生100年時代、平均寿命(健康寿命、社会参加寿命)が伸び、定年を過ぎた能力のある元気なシニアが存在するにもかかわらず、こうしたシニアを社会資源化することが十分できているとは言えません。また、シニアだけでなく、資格やスキルを持った女性が、結婚を機に職場を離れ、子育てや介護に時間を取られて、せっかくのスキルや資格を生かせないケースも多いのも現実です。

 私たちは、少子高齢化・人口減少という避けがたい条件下において、分業化、専門化された既存の社会システムをもう一度見直し、特定の課題に対する役割分担の再設計(リ・デザイン)し、デジタルを活用した市民を含む産官学民の新しい協働を行うことが、持続可能な社会を実現するために必要だと考えます。デジタルは、こうした協働を可能にするために設計し、活用すべきだと考えます。

市民中心型スマートシティ

 私たちは、こうした「市民を中心とした多様な関係者(行政、企業、大学、市民団体他)」が、デジタルを活用し様々な課題解決に向けた活動(有償/無償)を行うために仕組みとして「市民中心型スマートシティ」の構想を提唱しています。

 従来のスマートシティの多くが「市民に多様なサービスを効率的に提供する仕組み市民はサービスの受け手、消費者)」であるのに対し、市民中心型スマートシティは、「市民や市民組織を様々なサービスを提供・活動を実施する主体」と捉え「安心安全なデータ共有と協働を実現するための仕組み」です。
 データ連携基盤は、企業や行政間で効率よくデータを連携する仕組みである前に、市民と行政、民間で、人間中心の考え方(参考MyData宣言)によりデータを共有、活用するための仕組みとして設計すべきです。その機能の中心になるのは、個人が主権者としてコントロール権を持つデジタル・アイデンティティと自身のデータの管理と(事業者が保有するデータへの)アクセスの制御を可能にするパーソナルデータストア(PDS)です。
 行政を含む地域の多様なサービスは、この基盤の上に実装されるべきで、そこでは個人(市民)が自らのデータのコントロール権を持ちどのように自身のデータが使われているかを把握し、必要に応じてデータ提供を停止(オプトアウト)します。
 市民のデータ活用に対する判断を支援するために、家族やコミュニティ(将来的にはAIも)の力を活用し、営利ベースでの個人が意図しないデータ活用を抑制するとともに、自身だけでなく、家族や将来の地域・社会のために積極的に活用できるようにします。

 また、はじめから多くのパーソナルデータを扱うのではなく、用途が明確で開示に抵抗感が少ないデータの一次利用から始めて、市民が自身のデータ活用・制御に対する自信(自己効力感)を獲得してから、段階的に対象とするデータとその用途を拡大するのが良いと考えます。

 この時に、地域サービスの主役となる市民が、自身の活動実績や資格を蓄積・証明し、サービス対象者のデータへのアクセスの資格を証明し、アクセスログを第三者が検証可能な形で蓄積するデジタル・アイデンティティの仕組みは必須だと考えます。

ご参考)MyDataという考え方

 様々な地域サービスの実現には、パーソナルデータの活用の活用が必須です。一方で、自身のパーソナルデータが(大半の人が読み飛ばす長文の利用規約に)「形式的に同意した」ことを根拠として、自身は認識しない形で第三者に提供、商業利用され、様々な問題を引き起こしています。こうした背景に基づき、EUを中心とした世界各国でパーソナルデータに対する個人の権利の明確化事業者での取り扱いの厳格化が求められており、日本でも「個人情報保護法」が、3年ごとの見直しのたびに強化されています。

 こうした背景のなか、欧州を中心に、パーソナルデータの人間中心で、公正で、倫理的な利活用を目指し、「MyData」という活動がおこっています。日本でもこの動きに賛同する形で、一般社団法人MyDataJapanが活動を行っています。私たちはこうした活動に共感し、ビジネス(B: Business)、法律・行政(L: Leagal)、技術(T: Technology)、社会(S:Society)の各領域の有識者や実践者と連携し、活動を行ってまいります。詳しくは、MyDataの宣言(和訳)や、MyDataJapan Vision 2022を参照ください。

学びと協働の場(リビングラボなど)

 新しい役割分担・協働による持続可能な地域社会は、デジタルの仕組みだけで実現できるものではありません。新しい役割分担やそこにおける活動をデザインにするには、行政、民間、市民を含む多様な関係者が一緒になって現状を知り、課題解決に協働(デザインとアクション)することが必要だと考えます。

 このためには、市民、行政、民間、大学などが、共通の関心の元に集い、学び、議論し、共同作業を行う場が必要です。

 市民を中心として、こうした課題解決にむけて産官学民が協働する場として、リビング・ラボという仕組みがあります。

リビングラボとは

 リビングラボ(Living Lab)は、生活空間にある実験室(ラボ)という意味で、1990年代にアメリカで発祥し、2000年代に欧州を中心に広がった、生活者を中心とした産学官民協働による「イノベーション」創出の場です。様々なタイプのLiving Labが存在しますが、利用者(生活者)が中心で、多くの場合「地域という文脈」のなかで、市民、行政、企業、大学などの様々な関係者が共同で、新しい商品やサービス、活動を継続的に生み出す場です。

 現在、ヨーロッパを中心に、50か国、400以上のリビングラボが存在する(例えばENoLL:European Networks of Living Labを参照)といわれ、日本でも、鎌倉リビングラボ、横浜市内(10地区以上)、柏の葉リビングラボ、など、「リビングラボ」という名称を使わない場合もありますが、多数の活動事例が存在します(例えば、一般社団法人 未来社会共創センターを参照)。トヨタが裾野市で展開しつつあるWoven Cityも、民間主導型のリビングラボの一つと言えます。

 リビングラボの活動は、企業や大学が開発している商品やサービスを実環境、実ユーザで実験する場(評価フェーズ)という側面もありますが、どのような企画や活動を行うかの企画・設計の段階から、市民を主体にして行うことも重要な活動の一つです。

 私たちは、「市民と中心に、市民、行政、企業、大学が協働する場」としてリビングラボを捉え、リビングラボの活動として、地域課題の把握と共有(学習フェーズ)、課題解決に向けた施策の設計(デザインフェーズ)、繰り返しによる施策の実行と改良(実践フェーズ)を行う場を作り、こうした一連の活動を市民や行政を中心に実践、継続していくことがデジタルインフラを整備する前に重要だと考えます。